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広島高等裁判所岡山支部 昭和34年(ラ)37号 決定 1960年2月29日

抗告人 倉敷食料品商業協同組合

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、

原決定は民事訴訟法第七三一条第五項の規定の解釈を誤つたものである。即

一、原決定は本件換価は「形式的換価処分」であるというがその意味は不明であり、又「民訴第七三一条第五項の換価について従うべき有体動産執行における換価に関する規定とは、同法第五七二条によつて定められている同法第五七三条以下数条の公の競売方法に関する規定を指すものと解すべきである」というが、民訴第七三一条第五項には右のような文言はなく、原審の云うところも不明である。

二、若し民訴第七三一条第五項を原審の如く解釈するならば、債務者が委託加工業、時計の修繕業者である場合のように債務者の家屋内の物が全部債務者の所有物とは限らないから、債務者が受取を怠つたとの理由で単に執行裁判所の許可のみで他人の財産を処分することが出来る不当不合理が生ずる。右法条が執行裁判所の許可によつて動産の競売ができるようにしたのは、債務名義が家屋引渡請求であるから右許可は右債務名義に基いて動産の競売をも可能ならしめる意味の許可であつて、その動産の競売手続も右債務名義に基いてなす強制執行と解すべきである。原審の如く許可は形式的換価処分の許可に過ぎないなどとの解釈は不当な解釈である。

右の如く解しなければ第三者は異議申立の機会がなく、自己の財産が不当に処分されることになる。

三、本件記録を精査するに本件執行裁判所は許可についてその裁判の正本を債務者に送達していない。この裁判は強制執行の手続において口頭弁論を経ずしてなすことを得る裁判であるから即時抗告が出来る。しからば執行吏は換価につき許可を得た後右裁判の正本が債務者に送達済となつているかどうか又確定したかどうかに付て書類の審査をなす義務がある。しかるに本件においては執行吏はこれを行わず漫然執行裁判所の許可を得たのみで直ちに本件物件を公売したのは違法である。

よつて本件換価処分は取消を免れない。

というにある。

よつて按ずるに家屋明渡の執行に際して執行の目的以外の動産は、それが債務者の所有であるか、第三者の所有であるかを問わず、これを屋外に搬出して債務者又は代理人同居の親族雇人等に引渡すべく(民訴第七三一条第三項)右のような受取人不在の場合は債務者の費用を以て一時保管に付すべきであるが(同法条第四項)債務者がその動産の受取を拒否するときは、元来執行の目的物には属しないけれども、これを売却してその手総費用を控除した残代金を債務者のために供託すべく、その売却の方法は執行裁判所の許可を得た上で、執行の目的物である差押物を競売するときの規定に従い差押物と同様の方法で売却すべきことを規定したのが民訴第七三一条第五項である。即実質的には強制執行の目的物ではない物を形式的に強制執行の目的物と同一の方法で売却することを許したものであつて、このような処置はこれらの物を債務者に引取らせるために行われるのであるから、その遵守すべき規定とは民訴第五七二条により強制執行の目的物であるが故に差押を実施した動産についてその売却方法として規定されている同法第五七三条以下数条の公の競売方法に関する規定であることは明らかで、強制執行の目的物でもない動産について特に差押手続を行う必要がないことも明らかである。抗告人は執行裁判所の許可だけで差押手続をしないならば、その動産が第三者の所有物であつた場合、第三者が不当不測の損害を受けると主張するが、それは債務者がその動産を受取らないからであつて、債務者の責任というべく、そのために差押手続をしなければならないという理は生じない。原審の判示しているところもこれと同旨であつて、何ら法の解釈を誤つた違法はない。

次に抗告人は本件動産の売却についての執行裁判所の許可が債務者に通達されていない違法があるというが、これを通達すべき旨の規定はなく、又売却についての許可は債務者がその動産を受取らないからこそなされるものであるから、債務者としてはその受取を拒んだ以上何時その動産の売却許可があつて売却されるかも知れぬということが十分予期されているところであり、しかもその競売の日時、場所及競売される物は公告される(民訴第五七六条第二項)ので、許可の通達がなかつたからといつて債務者の保護に欠くるところはないから、執行裁判所の許可は債務者に通達する必要はないものといわなければならぬ。本件記録によれば抗告人を債務者とする家屋明渡の強制執行に際しその家屋内にあつた執行の目的外たる本件動産を屋外に搬出したが、抗告人が受取を拒んだので倉敷農業協同組合に一時保管してその旨抗告人に通知し、更にその引取を求めたが尚も抗告人がその受取を拒んだので昭和三十四年八月十四日にその換価についての執行裁判所の許可を受け同日その競売の日時場所等の公告をした上同月二十四日これを競売に付したことが認められるから、その手続に何ら違法な点はない。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却すべきものとする。

(裁判官 高橋英明 浅野猛人 小川宜夫)

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